東京司法書士会三多摩支会
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判例研究
C遺言無効確認裁判例
B更新料裁判の例研まとめ
A更新料裁判東京地裁編
@更新料裁判
 
■判例研究委員会 平成23年度更新料判例研究の報告書
平成24年4月25日

 課題 建物賃貸借契約における更新料条項の有効性について

1. 関西地方を中心に建物賃貸借契約における更新料条項の有効性が争われていた。
 更新料を授受する慣行は、地域により異なるようであるが、更新料条項が争われた京都市では、1年の契約期間で更新料額が月額賃料の2倍という約定がされているものがあり、高額な更新料の支払約定を契機に、賃料以外になぜ更新料を支払うのか、その疑問が顕在化し、裁判上争われることになった。
 更新料の授受が、借地借家法上の賃借人に不利な特約あるいは公序良俗に反して無効とまではいえないとしても、消費者契約法10条により無効であると争われた。
 即ち、更新料条項が、消費者契約法10条前段(民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重するものであるか)に該当するか、かつ同条後段(民法第1条第2項の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの)に該当するか、ということが主要な争点となった。
 平成23年7月15日最高裁第二小法廷は、以下の3件の上告事件についてそれぞれ更新料条項を有効とする判決を言い渡した。

2. 更新料特約について、大阪高等裁判所平成20年(ネ)第474号、第1023号更 新料返還等請求本訴、賃料請求反訴事件についての平成21年8月27日判決(以下「第1事件」という)、及び大阪高等裁判所平成21年(ネ)第2690号更新料返還請求本訴、更新料請求反訴、保証債務履行請求事件についての平成22年2月24日判決(以下「第3事件」という)は、消費者契約法第10条の規定により無効とし、大阪高等裁判所平成21年(ネ)第1211号更新料返還請求事件についての平成21年10月29日判決(以下「第2事件」という)は、当該事件の更新料支払条項を有効なものと判断していた。

3. 更新料条項を有効とした第2事件は、賃料月額5万2000円、賃貸借期間2年、礼金20万円、更新料2か月分との定めであった。
 賃借人が、更新料条項が消費者契約法10条により無効であるとの理由で、すでに支払った更新料の返還を求めたが、大阪高裁判決は、当該事件で契約締結時に支払われた20万円の礼金の趣旨は賃貸借期間を2年とする賃借権の設定を受けた賃借人としての地位を取得する対価であるとし、その後に更新され継続される賃貸借期間の長さを含んだ対価ではないので、更新された場合に、賃借権設定の対価の追加分ないし補充分として一定程度の更新料の支払いを受ける旨、あらかじめ賃借人との間で合意しておくことも、賃貸事業の経営において効果的な投下資本の回収及び利益追求の手段として必要かつ合理的な態度であることは否定できないとした。
 更新料の性質を、更新によって、当初の賃貸借期間よりも長期の賃貸借になったことに基づき、賃貸借期間の長さに相応して支払われるべき賃借権設定の対価の追加分ないし補充分と解するのが相当であるとし、更新料が、賃貸借契約締結時に支払われる礼金の金額に比較して相当程度抑えられるなど適正な金額にとどまっている限り、信義則に反する程度にまで賃借人に一方的に不利益なものではなく、更新料条項は有効なものとの結論を導いた。

4、第1事件は、賃料月額4万5000円、期間1年、礼金6万円、更新料10万円、敷金10万円の定めの賃貸借契約で、賃借人が、更新料条項は消費者契約法10条または民法90条により無効であるとの理由で既払いの更新料の返還を求めた事案である。
 賃貸人側は、更新料の法的性質について、@更新拒絶権放棄の対価(紛争解決金)、A賃借権強化の対価、B賃料の補充という複合的性質を有していると主張した。
 原審である京都地裁平成20年1月30日判決(平成19年(ワ)第1793号更新料返還請求事件)は、上記@Aの性質は希薄としながら一応認め、Bについても認めたうえで、更新料の額についても相当性を欠くものではないとして更新料条項を有効なものとしていた。
 これについて高裁判決は、次のように判断している。
 @について、賃貸建物で更新拒絶は、想定されず、例外的に更新拒絶しても正当事由は 通常ありえず、更新拒絶権放棄の対価との説明は困難で、仮にそうであるとしても契約期間1年では賃借人の利益は些少で、そのために些少ではない10万円という対価を支払うことはありえない。
 借地借家法28条によれば正当な事由がなければ賃貸人が更新拒絶できず、通常は更新拒絶の正当事由は認められないと考えられるから、更新料が、一般的に更新拒絶権放棄の対価としての性質をもつと説明することは困難である。
 Aについて、合意更新により期間の定めある賃貸借契約になるとすれば、賃借人は期間満了まで明渡しを求められることはない、これに対し法定更新では期間の定めがない賃貸借となり、正当な事由がある限りいつでも解約を申し入れることができるので、その限りで更新料を支払って合意更新することは、賃借権強化と言えないことはないが、1年の賃貸借期間では賃借権が強化される程度は無視できるほど小さく、通常は、解約申し入れに正当事由がみとめられることはないと考えられるから、本件更新料を評して賃借権を強化すると説明することも困難である。
 Bについて、本件賃貸借契約には、賃借人が、本件更新料が支払われた後、期間満了前に退去した場合に未経過期間分に相当する額の清算をする規定はなく、賃貸人もそのような清算をする意思が全くないこと、賃料、共益費については契約期間中においても増額変更請求権が明記されているにもかかわらず、本件更新料についてはそのような規定がないことから、本件更新料を前払賃料と説明することも困難である。
 賃借人が、家賃の支払いを完全に履行し続けながら本件更新料を不払いとした場合、法定更新の要件がある限り、本件賃貸借契約自体の債務不履行解除を認めるべき余地はないといって差し支えない。そうすると、本件更新料を、民法、借地借家法上の賃料、借賃と解することはできない。

5. また、更新料の法的性質に関わらず、更新料の支払いの合意が明確に意識されていることから、当事者は更新料を使用収益の対価として把握していると意思解釈できるとの主張に対して、高裁の判断は、次のとおりである。
 本件賃貸借の更新時に支払われる金銭であることを超えて、その授受の目的、性質などについて法律的観点からはもちろん事実上の観点からも何らかの説明がされたとは認められないことから、本件更新料は単に契約締結時に支払われる金銭という以上の認識はなかったと推認するほかない。 
  経済学的な説明としては、賃貸人が賃借人に本件物件の使用収益を許す対価であるということができ、当事者双方がともに経済的な意味ではこれを認識していたとしても、仮に本来賃料であるとすれば当然備えているべき性質を欠いている以上、法律的な意味で当事者双方がこれを民法、借地借家法上の賃料と認識していたということはできず、法律的にこれを賃料と説明することは困難であり、本件更新料が賃料の補充としての性質をもっているということもできない。

6. 消費者契約法10条により無効となるかとの高裁の判断は次のとおりである。
 同条前段について、民法601条によれば、賃貸借契約は、賃貸人が賃貸物件を使用収益させることを約し、賃借人はこれに賃料を支払うことを約する契約であり、賃借人が賃料以外の金銭支払義務を負担することは、賃貸借契約の基本的内容に含まれないものであり、更新料支払約定は、民法の任意規定に比し賃借人の義務を加重するもので同条前段の要件を満たすものである。
 後段については、1年の短期間であるにもかかわらず更新料10万円は月額賃料4万5000円と対比するとかなり高額といいうるもので、賃借人にとって大きな経済的負担となる。
 更新料の授受について事実関係は様々ですべてを同一に論じることはできないが、本件賃貸借契約では、更新料条項がおかれている目的、法的根拠、性質は明確に説明されておらず、一般的に全体の負担額が同じであっても、当初の負担額が少ないほうを好む人々が少なからず存在し、そのような人に対し、更新料を併用することにより法律上の対価である賃料を一見少なく見せることは許容されない。
 双方の情報収集力の格差が存在することは疑いがなく、借地借家法28条の要件を知らずに賃借人に大きな負担を課す契約を締結することに至ったとも評価できる。
 このような点から「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」ということができる。

7. 同じく更新料条項を無効とした第3事件は、マンションの一室について、期間1年、月額賃料3万8000円、重要事項説明書において賃料2か月分の更新料、12万円の定額補修金の定めがあるものであった。
 賃借人は、更新料、定額補修金のいずれも消費者契約法10条により無効であるとの理由で、その支払済みの金員の返還を求めた。
 高裁は、第1事件と同旨の判断で更新料条項を無効とし、定額補修金についても、軽過失による損耗の現状回復費用が月額賃料の3倍以上になることは考えにくく、賃借人側に不利益になる可能性が高く無効としている。

8. 上記第1〜3事件の上告事件について、平成23年7月15日最高裁第二小法廷は、それぞれ更新料条項を有効とする判決を言い渡した。その論旨は、次のとおりである。
(1) 本件賃貸借契約は、消費者契約法10条にいう消費者契約に当たり、更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、任意規定の適用による場合に比し(ここでいう任意規定には明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれる。)、消費者である賃借人の義務を加重するものである。
(2) 更新料は、賃料とともに賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払いにより賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に賃料の補充ないし前払い、賃貸借契約を継続するための対価等を含む複合的な性質を有し、更新料の支払いに経済的合理性がないということはできない。
(3) また、一定の地域において更新料の支払をする例が少なからず存在することや、裁判上の和解手続き等においても更新料条項が公序良俗に反するとして当然には無効とされてこなかったこと、更新料が、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、更新料の支払いについて明確な合意が成立している場合に、賃貸人と賃借人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過しえないほどの格差が存するとみることもできない。
(4) そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。

9.その後、京都地裁平成21年(ワ)第4696号更新料等返還請求事件についての平成24年2月29日判決は、賃料月額4万8000円、共益費月額5000円、期間1年、敷金10万円、更新料15万円、基本清掃料金2万6250円を退去時に敷金から差引くとの定めがある賃貸借契約において、基本清掃料特約を有効としたうえで、「更新料については、契約期間1年の建物賃貸借契約における更新料の上限は年額賃料の2割とすることが相当である。」として、これを超える部分の更新料を無効としてこの返還を命じた。
 前記最高裁判決は、少なくとも契約期間1年で更新料の額が月額賃料の2か月分に相当する場合であっても無効とはしなかったことを受けて、前記京都地裁は、「更新料の額 が、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎる」場合の判断基準を示したものであるが、その評価は今後の判例並びに実務界の動向に待つことになろう。

10、更新料の授受が、地域的慣行とされ、必ずしも全国的なものではなく、その額も地域によって異なるのは、様々な理由があるにしても、その地域の借家の需要と競争条件によって、賃料の額の設定だけでは補えない事情が存在するためであろう。
 居住用建物の賃貸借契約について、更新料が発生した由来について、大阪高裁平成21年(ネ)第2548号事件の平成22年5月27日判決では、地価高騰期に新規賃料と継続賃料との差を埋めるために更新料徴収の慣行が始まったと認定しているが、関東地方でも、賃借権設定した賃料額と賃借権が継続していく間に周辺の賃料相場との間に差が生じ、その差を賃料の増額で埋めることが困難であるために、短期契約を設定して更新を繰り返し、更新料名目でその差を埋めることがなされた時期があった。
 しかし、今日では、新規賃料と継続賃料との差がなく、賃貸人にとっては当初の賃料の想定で資金回収及び利益確保の計画を立てることができるのであるから、月額賃料と別名目で、実質賃料であるという更新料を徴収する正当性は失われている。
 更新料が高額になることにより、賃借人にその支払いが過重な負担となって更新の妨げになることがあるとすれば、借地借家法が賃貸人からの更新拒絶に正当事由を要求して賃借人の居住権を保護した趣旨を没却することになろう。また更新料という名目は、期間満了とともに特別に費用の支払をしなければ更新が認められないとの誤解を与え、適当とは思えない。更新料が、社会的儀礼としてのお礼、贈与的性格のものであれば、その旨契約書に明記すべきであるし、更新料が、実質賃料であるならば年払賃料と月払賃料との併存であることを契約書に明記するべきであろう。賃借人の賃料支払の便宜のために一時金の支払と月払賃料を併存させるのであれば、賃借人にその支払方法の選択ができることも明記し、その支払の趣旨を明確にすべきであろう。
 今日では、関東地方では、従来、更新料の授受があった地域でも、更新料の額を減額するか、全く更新料を定めない契約もなされている。更新料を授受するとしても、一部不動産業者の広告では、更新料を含めた全部の名目の支払金額の総額の提示をすることが始められているのは、賃料負担が低額であるように見せかけるために更新料を設定することには防止効果があるが、更新料という名目の正当性が問われなければならない。
 今日の居住用建物の賃貸借契約において、賃貸物件が不足とはいえない状況で居住者の保護がどの程度にまでなされる必要があるのか、という点について、本委員会においても様々な意見があり、借地借家法で居住権の保護を図っている以上に、消費者契約法により、情報力、交渉力の格差を認めて賃借人の保護が図る必要があるのかという意見もある。しかし、更新料の支払の趣旨が明確にされないまま支払義務のみが明記される契約は正当なものではないと筆者は考える。

(文責 高木治通)